◆生理痛に対する西洋医学的な考え
生理痛、子宮内膜症、卵巣膿腫など婦人科系の病気は骨盤内の血行障害が主な原因であると言われています。骨盤の中の血行が悪くなり、子宮が経血を出そうと強く収縮しようとすると下腹部の痛みになります。
そして冷え症の体質に心身の過労やストレス、運動不足が上乗せされるとさらに血管は収縮し、顆粒球(白血球など自己免疫機構の一種)による女性器の粘膜組織の破壊が起こります。
一方で副交感神経といって血管を開いたり、体にいらなくなったものを体外に排出したり、消化液やホルモンなどを分泌する神経は抑制されてしまいます。
もし、それまでに無かった生理痛を突然感じるようになったら、ストレスがないか、体を冷やしていないか、仕事をし過ぎて疲労が蓄積していないか、もう一度、生活全般を見直して下さい。生理痛は「無理していませんか?」という体からの注意信号なのです。
まず、自分でできる基本的な対処法は、心身をリラックス、徹底して体を温める事です。
血流が良くなる事が根本の治癒につながります。
生理痛をその原因から大きく区分けすると、「器質性の生理痛」と「機能性の生理痛」の2つに分けられます。
器質性の生理痛とは子宮や卵巣に病気や炎症などが発症したことによっておこります。(また、生理痛の酷い方は将来的に婦人病になりやすいとも言われています。)
機能性の生理痛とは、原因はハッキリとしない事が多いのですが、疲労やストレス、内分泌系(つまりホルモン)の働きがスムーズでないことから引き起こされると言われており、妊娠・出産を経験していない女性や、若い女性に多いようです。
また、世間では“子供を産むと生理痛がなくなる“と良く言いますが、人によっては出産後に女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が必要以上に増えて子宮内膜症や子宮筋腫になり、器質性の生理痛が起こる場合もあります。
(これらの疾患にはエストロゲンを減少させるような治療を行う事がありますので、もし健康食品などを摂取している場合はこれらを増加させる作用がないか、チェックしておく必要があります。)
また産後の育児により、精神的・肉体的なストレスを感じて生理痛がひどくなることもあります。ですから「産後に生理痛が良くなる」とは一概に言えない訳です。
ただ、出産を経験していない方の場合、子宮口が狭いので子宮を強く収縮することで生理時の血液を出そうとして痛みが強くなることもあるため、妊娠や出産を経験することによって痛みを伴わなくなる人もいるようです。
《生理痛の原因について》
生理がある女性のうち生理痛がある人は約80%、日常生活に差し支えるほど痛む人は約30%、鎮痛剤を飲んでも寝込んでしまう人は約6%いるといわれています。
機能性および器質性による生理痛の原因は、次のように考えられています。《機能性の生理痛の原因》
1、子宮が未熟で子宮頚管が狭いため、子宮から押し出されてくる血液がスムーズに流れないために起こります。妊娠や出産を経験していない、10代から20代前半の若い女性に多く見られます。
2、子宮内膜から分泌されるプロスタグランディンというホルモンは子宮を収縮させ、血液を外に押し出す働きをしていますが、体質的にこのホルモンの分泌量が多いと子宮の収縮が通常より強くなるために起こります。。
3、冷房や薄着などで体が冷えることによって骨盤の中の血液循環が悪くなり、血液を押し出そうとしてプロスタグランディンの分泌量が増えるために起こります。
《器質性の生理痛の原因》
1、子宮内膜症によるもの
子宮内膜症は、生理がある女性の10人に1人みられるといわれ、20代後半から40代前半の卵巣機能の活発な時期に発生することが多く見られます。これは、本来であれば子宮の内側だけに存在するはずの子宮内膜組織が、子宮の外にある卵巣や腹膜などで発生・増殖する病気(子宮の筋肉層に発症した場合は“子宮腺筋症”と呼ばれます。)で、この増殖した部分も、生理と同様に周期的にその場所で組織が剥がれ落ちたり、出血したりするのですが、体外に排出することができないので、はがれた組織や血液がそこにたまって周囲の臓器や組織とくっついてしまい炎症を起こします。
子宮内膜症が最も多く起こるのは卵巣(卵巣の中に子宮内膜症ができると、出血の行き場がないので血液が貯まり、出血と水分の吸収を繰り返すうちに中身がドロドロしたチョコレート状に変化して卵巣が腫れます。これがチョコレート嚢腫という疾患で、子宮内膜症の80%位の人にチョコレート嚢胞が見られます。)ですが、ダグラス窩(子宮と直腸の間のくぼみ)、仙骨子宮靭帯(子宮を支える靭帯)、S状結腸、直腸、 膀胱子宮窩(膀胱と子宮の間のくぼみ)にもよく起こります。
その他まれにですが、へそや肺、胃や腸など、骨盤外に子宮内膜ができることもあります。検査法は内診と直腸診に加え、超音波断層法検査、CT検査、MRI検査、腹腔鏡検査などの画像診断により診断します。最近は腹腔鏡が広く利用されるようになり、以前よりも発見率が増加しています。症状としては、強い生理痛(年を経るにしたがって強くなる)や、生理期間が長引いたり、月経過多、貧血、腰痛、性交痛、不妊症などがあげられます。
(また、子宮内膜症の0.7%~1.0%は卵巣がんを合併します。) 原因としては今のところはっきりと解明されていませんが、女性ホルモンのバランスの崩れや、子宮内膜を含んだ月経血の一部が、卵管を通って卵巣や周囲の臓器に移植されることによって起こると言われています。
(月経のときの出血は、腟から外に出るだけでなく、卵管を逆流しておなかの中にも排出されるため、このような事が起こる)
治療は程度が軽ければ、痛みを和らげるために鎮痛剤や漢方薬が使われます。それで改善しない場合、一時的に閉経状態を作り出すGnRHアゴニスト(スプレキュア・ナサニール・リュープリン)やダナゾール(ダナゾールは男性ホルモンに近いホルモン剤)などのホルモン剤を6ヶ月間投与するホルモン療法を行います。
(日本では保険適応になっていませんが、アメリカでは低容量ピルが最も一般的です。)
これにより、子宮内膜症病変の退縮や消失がみられ、月経困難症などの痛みを改善することができます。状態によっては手術(腹腔鏡下手術により卵巣チョコレート嚢胞を切開し、中に貯留した血液と嚢胞壁を取り除くと共に、内膜症病変を焼灼する方法や子宮や卵巣を全摘出する方法)を行う事があります。
2、子宮筋腫によるもの
子宮筋腫とは、卵巣ホルモンの作用によって子宮体部の筋肉にできる良性の腫瘍です。(良性のものですので、他の臓器に転移する危険も無く、悪性のガンになることは、ほとんどありません。)30代以上の女性の5人に1人にみられるといわれ、最近は20代の患者も増えています。
女性ホルモンの分泌が盛んな間はホルモンの影響で大きくなっていき、早い人は20代後半からみつかりますが,強い症状がでるのは30代なかばからです。50才を過ぎてホルモンが低下すると筋腫は縮小していき、生理が終わると症状もなくなりますので治療の必要はなくなります.医療機関では、で発見されています。
症状としては子宮筋腫になると、子宮内膜の表面積が広くなるので生理時の出血量が増え、血の塊が出てきたり、生理が長引いたりなどが起こります。婦人科で超音波、CTスキャン、MRIといった画像検査後に子宮筋腫が見つかった場合は、基本的には症状が無い場合は特に治療をせずに経過観察をする事が多いようです。
ただ、月経異常(月経困難症、月経痛、過多月経)、不正子宮出血、貧血、圧迫症状など、日常生活に支障をきたすような状態であれば、まず、女性ホルモン(エストロゲン)を抑えるよう薬(GnRHアゴニスト)によって人為的に閉経状態を作って筋腫を小さくします。
(大体、平均30~60%ほど縮小しますが、副作用として吐き気、むくみ、不眠、関節痛、筋肉痛、血圧の変動などが起こることがあります。)それでも結果が良くない場合に、手術によって除去することもあります。
手術法には筋腫のみを取り去る方法(再発する可能性があるが術後も妊娠できる可能性がある)と子宮ごと全摘出する方法(再発の可能性はない)の2つがあります。
全体的に見て手術しないと危険,手術以外の治療では効果が望めない,というような本当に手術が必要なケースは実はそれほど多くはありません。
症状がなければ,大きいという理由だけで手術する必要はありません。
逆に筋腫が小さくても症状が強く、薬での治療がまうくいかない場合は手術のほうが適しています。また子宮筋腫はその筋腫ができる場所によって「筋層内筋腫」「しょう膜下筋腫」「粘膜下筋腫」3種類に分けられます。
「筋層内筋腫」・・・・・
一番多い筋腫です。
子宮の筋肉の中で大きくなっていくタイプのもので、小さいうちは自覚症状があまりなく、筋腫が大きくなるにつれて子宮の内側を覆う子宮内膜が引き伸ばされていって、生理痛や出血が多くなります。
下腹部を触るとコリッとしたしこりが感じられます。層内タイプは大きくなると内膜面積が増加するため出血量が増え,内腔変形のため血が塊となりやすく排出が困難になり生理痛がひどくなります.
「しょう膜下筋腫」・・・
子宮の外側に向かって大きくなる筋腫です。
筋腫が大きくなっても自覚症状がほとんどないために発見が遅れる事も多いようです。
「粘膜下筋腫」・・・・・
子宮の内側に向かって大きくなる筋腫です。
筋腫が小さいうちから不正出血がダラダラ続いたり、月経時の出血量が多いといった症状が現れやすい為、貧血になりやすくなりますが、内側に筋腫ができるので外からは触れにくく、一番妊娠しにくい筋腫です。
このタイプは薬が効きにくいため、その状態によっては子宮鏡を子宮内腔に挿入して高周波メスやレーザーにより、筋腫を摘出する手術が選択されることが多いようです
最近は超音波による検査で、筋腫のタイプと子宮の大きさをかなり正確に把握することができます。
にぎりこぶしの大きさで、大体200gくらいですが、しょう膜下筋腫タイプなら300gくらいでも生理痛も貧血もないまったく症状のない人もいます。
この場合は手術の必要はないので、経過観察でしばらく様子を見ることが多いようです。
なお、手術を行う場合の婦人科での説明を以下にご紹介しておきます。
「子宮筋腫の手術について」
手術には子宮を全部とる子宮全摘術(これはおなかを切る腹式手術と,おなかを切らないで腟から子宮をとる腟式手術の2通りがあります。)と筋腫だけとる筋腫核出術の2つに分かれます。全摘術では子宮癌の心配がなくなりますが、筋腫核出術では筋腫の再発と子宮癌の発生の可能性が残ります。
その代わりに核出術は子供を産む可能性を残すことが出来ます。
子宮を取ってしまうとホルモンのバランスが崩れて女らしさを失うとか,更年期障害の症状がひどくなるのではないかと心配する人が多いようですが,このようなことはありません。
最近の方法では卵巣腫瘍が疑われない限り卵巣は必ず残すようになってきているのでこういったことは起こらないようです。子宮がなくなることによって、生理もなくなりますが,閉経したわけではなく排卵は行われます。
しかしその場合、卵子はとても小さいのでおなかのなかで自然に吸収されていきます。女性ホルモンをつくっているのは卵巣ですから子宮がなくなってもホルモン状態はかわらず,排卵時の基礎体温の上昇もみられます。
子宮を取った後,子宮があった空間は前に膀胱,後ろに直腸,上には小腸がありますので、これらの臓器に埋められます。ですので、そこにすきまがあいたり空洞になったりはしません。(お腹は多少へこむ事もあるようです。)
腟式ではおなかを切らないので,傷跡がなく痛みも軽いというメリットがありますが,狭いところでの手術になるため、難易度が上がります。(特にお産の経験が無く、膣が狭い人。)最近では大きな子宮の場合でも、手術の前に女性ホルモンを下げる薬により、生理をとめて閉経後と同じ状態にして子宮を小さくしたり,腹腔鏡を併用して癒着をはがしたりして腟式で手術を行うことが多いようです。
3、子宮肉腫によるもの
子宮肉腫とは悪性腫瘍が子宮体部の筋肉にできる、ガンの中でも非常にまれなものです。
(医学上は体の外側および表層部に沿って組織を形成している細胞(上皮細胞)からなる悪性腫瘍を“ガン”と言い、非上皮性細胞(間質細胞:支持組織を構成する細胞からなる部分の悪性腫瘍を”肉腫(ニクシュ)”と言います。)
子宮にできた肉腫は子宮筋腫に比べて成長が早く、膀胱を圧迫、頻尿を引き起こし、下腹部のふくらみがみられます。生理痛が強くなって出血量も増え、不正出血が起こります。
さらに、肉腫は血管を通って子宮の外にある、他の臓器へと転移します。子宮肉腫は、よく子宮筋腫(良性)と見間違われるため、その発見が遅れてしまうことが多いようです。
自覚症状もほとんど同じで、MRI検査をしても鑑別が難しいようです。
ただ、生理が終わったあとも下腹部の痛みが続く場合や、閉経後にも筋腫が大きくなっていくような場合は、その可能性も考えられますので、病院で精査してください。
治療法としては、手術による子宮、卵管、卵巣、骨盤内のリンパ節の切除、X線の近接照射による放射線療法、抗がん剤を内服、または静脈注射する化学療法があります。
4、子宮腺筋症によるもの
子宮腺筋症とは、正常な場所(子宮腔内)にある子宮内膜が、子宮の筋層の中へもぐり込んでいく病気です。
(粘膜で増殖する子宮内膜症とは違い、子宮の筋層までもぐり込んで発症する)通常、月経では子宮内膜が血をともなってはがれ落ちますが、子宮筋層にもぐり込んでいる子宮内膜(子宮腺筋症病巣)からも月経時に出血がおこります。また、出血したところが治っていく過程で、瘢痕という硬い組織ができます。そのため、子宮のサイズが次第に大きくなっていきます。
子宮腺筋症では、月経時に子宮筋層の中に出血するため、子宮の筋肉がひきのばされたような状態になります。このために非常に強い痛みがおこるのです。
子宮腺筋症の症状は月経痛と過多月経です。過多月経であるかどうかで、子宮腺筋症と子宮内膜症をある程度鑑別することができます。
また、子宮腺筋症では子宮筋層内で出血と瘢痕治癒が繰り返されるため、子宮はしだいに大きくなっていきますが、子宮内膜症ではこのようなことはおこりません。
大きくなった子宮は、膀胱や腸など周囲の臓器を圧迫します。ひどくすると臍の上まで大きくなるようです。
5、ストレスによるもの
受験勉強や人間関係などの日常の精神的なストレスが重なって、ホルモンのバランスが崩れると生理痛が強くなります。